10月25日、京都の第87回菊花賞。ここにロブチェンが出てきます。皐月賞とダービーを勝った二冠馬で、前哨戦の神戸新聞杯も勝ってきました。勝てばセントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴル、コントレイルに続く史上9頭目の三冠馬です。
2001年以降の三冠レースの勝ち馬を並べた表を見ていて気づいたのは、皐月賞とダービーを勝って菊花賞で負けたのが、ネオユニヴァースとメイショウサムソンの2頭しかいないこと。逆にいえば、二冠馬が菊花賞に出てきたら半分以上は三冠を取っている、ということでもあります。
本当にそうなのか、TARGETのデータで1986年までさかのぼって、いくつかの角度から見てみました。
歴代の三冠馬8頭
| 達成年 | 馬名 | 主な騎手 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 1941 | セントライト | 小西喜蔵 | 史上初 |
| 1964 | シンザン | 栗田勝 | 「神様、仏様、シンザン様」 |
| 1983 | ミスターシービー | 吉永正人 | 父トウショウボーイ |
| 1984 | シンボリルドルフ | 岡部幸雄 | 史上初の無敗三冠 |
| 1994 | ナリタブライアン | 南井克巳 | 「シャドーロールの怪物」 |
| 2005 | ディープインパクト | 武豊 | 無敗三冠 |
| 2011 | オルフェーヴル | 池添謙一 | 牡馬クラシック三冠 |
| 2020 | コントレイル | 福永祐一 | 史上初の父子(ディープインパクト)無敗三冠 |
ロブチェンのここまで
父ワールドプレミア、母ソングライティング(母の父Giant’s Causeway)。ノーザンファーム生産、栗東・杉山晴紀厩舎。デビューからずっと松山弘平騎手が乗っています。
| 日付 | レース | 距離 | 人気 | 着順 | 通過順 | 上がり3F | 2着馬(3着のときは勝ち馬) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025.11.09 | デビュー戦(京都) | 芝2000 重 | 2 | 1 | 1-1-1-1 | 35.4 | アルペングロー |
| 2025.12.27 | ホープフルS(G1) | 芝2000 | 7 | 1 | 6-7-7-7 | 34.5 | フォルテアンジェロ |
| 2026.02.15 | 共同通信杯(G3) | 芝1800 | 3 | 3 | 4-4-4 | 33.4 | リアライズシリウス |
| 2026.04.19 | 皐月賞(G1) | 芝2000 | 1 | 1 | 1-1-1-1 | 34.2 | リアライズシリウス |
| 2026.05.31 | 日本ダービー(G1) | 芝2400 | 1 | 1 | 9-10-9-8 | 33.2 | パントルナイーフ |
| 2026.09.21 | 神戸新聞杯(G2) | 芝2400 | 1 | 1 | 5-7-8-4 | 33.8 | アルトラムス |
6戦5勝、G1は3勝。皐月賞は逃げて1分56秒5の皐月賞レコード。前年のミュージアムマイルの1分57秒0を0秒5も詰めています。ダービーは17番枠から中団に控えて、ゴール前でパントルナイーフをとらえて2分22秒7。こちらもダービー史上4番目に速い勝ち時計です。
逃げても勝てるし、中団で溜めても勝てる。この「どこからでも競馬ができる」ところが、ロブチェンのいちばんの武器だと思います。
観点1 二冠馬は菊花賞でどうだったか
1986年以降、皐月賞とダービーを両方勝った馬は10頭います。そのうちトウカイテイオー(1991年)、サニーブライアン(1997年)、ドゥラメンテ(2015年)の3頭は故障で菊花賞に出られませんでした。出走した7頭の結果がこちらです。
| 年 | 馬名 | 前哨戦 | 菊花賞 |
|---|---|---|---|
| 1992 | ミホノブルボン | 京都新聞杯 1着 | 2着(1番人気) |
| 1994 | ナリタブライアン | 京都新聞杯 2着 | 1着(1番人気) |
| 2003 | ネオユニヴァース | 神戸新聞杯 3着 | 3着(1番人気) |
| 2005 | ディープインパクト | 神戸新聞杯 1着 | 1着(1番人気) |
| 2006 | メイショウサムソン | 神戸新聞杯 2着 | 4着(1番人気) |
| 2011 | オルフェーヴル | 神戸新聞杯 1着 | 1着(1番人気) |
| 2020 | コントレイル | 神戸新聞杯 1着 | 1着(1番人気) |
| 2026 | ロブチェン | 神戸新聞杯 1着 | ? |
7頭で4勝。7頭すべてが1番人気でした。
目を引くのは前哨戦です。神戸新聞杯を勝って菊花賞に来た二冠馬は、ディープインパクト、オルフェーヴル、コントレイルの3頭で、3頭とも三冠を取っています。負けたネオユニヴァースとメイショウサムソンは、どちらも神戸新聞杯で負けていました。秋の初戦で崩れなかったことは、ロブチェンにとって素直に追い風です。
ただ、前哨戦を勝っても届かなかった例もあります。ミホノブルボンは京都新聞杯を勝って臨みましたが、ライスシャワーに差されて2着でした。逃げ馬が3000mで最後に止まった、という負け方です。
観点2 勝ち方の「余裕」
次に見たのは、二冠馬が2着馬をどれくらい離して勝っていたかです。2着馬とのタイム差を並べると、はっきり差が出ました。
| 馬名 | 皐月賞 | ダービー | 前哨戦 | 菊花賞 |
|---|---|---|---|---|
| ミホノブルボン | 0.4秒差 | 0.7秒差 | 1着 0.2秒差 | 2着 |
| ナリタブライアン | 0.6秒差 | 0.9秒差 | 2着 | 1着 |
| ネオユニヴァース | 同タイム | 0.1秒差 | 3着 | 3着 |
| ディープインパクト | 0.4秒差 | 0.8秒差 | 1着 0.4秒差 | 1着 |
| メイショウサムソン | 0.1秒差 | 0.1秒差 | 2着 | 4着 |
| オルフェーヴル | 0.5秒差 | 0.3秒差 | 1着 0.4秒差 | 1着 |
| コントレイル | 0.1秒差 | 0.5秒差 | 1着 0.3秒差 | 1着 |
| ロブチェン | 0.2秒差 | 同タイム | 1着 同タイム | ? |
三冠を取った4頭は、ダービーで0.3秒から0.9秒、2着馬を突き放していました。負けたネオユニヴァースとメイショウサムソンは、皐月賞もダービーも0.1秒差以内の接戦。ここは正直、ロブチェンには気になるところです。ダービーも神戸新聞杯も、2着馬とタイム差なしの際どい勝負でした。
もっとも、神戸新聞杯は前半3Fが37秒3という遅い流れで、後ろにいた馬も33秒台の脚を使えた展開です。勝ち切れたことのほうを評価する見方もできます。ロブチェンは「圧勝する馬」ではなく「最後に必ず前に出る馬」なのかもしれません。それが3000mでどう出るか。
観点3 ダービー馬は菊花賞を勝てるのか
1986年以降、ダービー馬が菊花賞に出たのは20回。勝ったのは4回で、その4回はナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴル、コントレイル。つまりダービー馬が菊花賞を勝ったときは、毎回三冠馬になっているということです。
スペシャルウィーク(2着)、ウイニングチケット(3着)、ジャングルポケット(4着)、ワンアンドオンリー(9着)、タスティエーラ(2着)、ダノンデサイル(6着)。ダービー馬でも、ただ強いだけでは勝てないのが菊花賞です。2400mの頂点と3000mの頂点は、似ているようで別物なんだと思います。
観点4 血統 父も祖父も菊花賞馬
ロブチェンの父ワールドプレミアは2019年の菊花賞馬です。そのワールドプレミアの父ディープインパクトは2005年の三冠馬。ロブチェンが勝てば、祖父・父・子の3代続けての菊花賞制覇になります。
1986年以降の菊花賞馬40頭で、父も菊花賞馬だった例は8回あります(父ダンスインザダークが3頭、父ディープインパクトが5頭)。父子で菊花賞は珍しくありませんが、3代続けて、というのは1986年以降のデータでは一度もありません。
一方で、ワールドプレミア産駒はまだ数が少なく、JRAで走ったのは24頭。重賞を勝っているのはロブチェンだけです。芝2500m以上の出走は5回しかなく(1勝・3着内2回)、「産駒は長距離向き」とも「向かない」とも言える段階ではありません。母の父Giant’s Causewayはアメリカのスピード血統で、ここをどう見るかは人によって分かれそうです。
観点5 菊花賞の1番人気
ロブチェンはおそらく単勝1倍台の1番人気になります。1986年以降40回の菊花賞で、1番人気は13勝。勝率は3割ちょっとです。
ディープインパクト、オルフェーヴル、ゴールドシップ、エピファネイア、サトノダイヤモンド、コントレイルと、2005年から2020年までは1番人気がよく勝っていましたが、2021年以降の5年は1番人気の勝利が2025年のエネルジコだけ。ソールオリエンス(3着)、ダノンデサイル(6着)と、春のクラシック馬が1番人気で負けています。
観点6 前哨戦の流れが変わってきた
2020年までの菊花賞は、神戸新聞杯組が中心でした。神戸新聞杯を勝って菊花賞を1番人気で勝った馬が、2005年から2020年の間に6頭います。
ところが2021年以降の勝ち馬は、タイトルホルダー(セントライト記念13着)、アスクビクターモア(セントライト記念2着)、ドゥレッツァ(日本海S1着)、アーバンシック(セントライト記念1着)、エネルジコ(新潟記念2着)。神戸新聞杯組からは5年続けて勝ち馬が出ていません。夏に長い距離を使ってきた馬や、別路線組が台頭しています。
今年の登録馬にも、夏の2600mを連勝してきたダノンヒストリー、2600mの積丹特別を勝ったミッキーファルコン、2500mの九十九里特別を勝ったキンググローリー、帆柱山特別(2600m)を勝ったナリタエスペランサがいます。セントライト記念は12番人気のジャスティンシカゴが勝ちました。ロブチェンを負かす馬がいるとすれば、こうした「春の勢力図にいなかった馬」かもしれません。
観点7 京都3000mと脚質
京都で行われた菊花賞の勝ち馬を見ると、4コーナーで先頭から8番手くらいまでにいた馬がほとんどです。セイウンスカイ(1998年)のような逃げ切りもあれば、ディープインパクトのように中団から押し上げた勝ち方もあります。
ロブチェンは皐月賞で逃げ、ダービーは中団、神戸新聞杯は中団から4コーナーで4番手まで上がっていきました。どの位置でも競馬ができるので、展開に左右されにくい。3000mでは折り合いが勝負を分けますが、外枠のダービーでも折り合って脚を溜められたのは大きな材料です。
観点8 人 松山弘平と杉山晴紀
松山弘平騎手と杉山晴紀調教師は、2020年にデアリングタクトで牝馬三冠(桜花賞・オークス・秋華賞)を達成したコンビです。三冠のプレッシャーを一度くぐり抜けている、というのは心強いところです。
ただ菊花賞に限ると、松山騎手はこれまで11回乗って最高6着(2023年ハーツコンチェルト)。2022年には杉山厩舎のガイアフォースで1番人気8着という悔しい経験もあります。杉山厩舎の菊花賞は2022年ジャスティンパレスの3着が最高。コンビにとっては、この舞台そのものが初めて勝ちにいく場所でもあります。
今年の登録馬21頭
| 馬名 | 父 | 近走のおもな成績 |
|---|---|---|
| ロブチェン | ワールドプレミア | 神戸新聞杯1着、ダービー1着、皐月賞1着 |
| アウダーシア | キズナ | セントライト記念3着、スプリングS1着 |
| アスクエジンバラ | リオンディーズ | セントライト記念4着、皐月賞4着 |
| アルトラムス | イスラボニータ | 神戸新聞杯2着、毎日杯1着 |
| イブキ | レイデオロ | 2400mの1勝クラスを勝利(10/11) |
| エムズビギン | キタサンブラック | 神戸新聞杯5着、きさらぎ賞2着 |
| キンググローリー | ダノンプレミアム | 九十九里特別(2500m)1着 |
| コンジェスタス | コントレイル | 京都新聞杯1着、神戸新聞杯6着 |
| ゴーイントゥスカイ | コントレイル | 青葉賞1着、ダービー4着、セントライト記念6着 |
| サノノグレーター | グレーターロンドン | ラジオNIKKEI賞1着 |
| シートゥサミット | モーリス | 神戸新聞杯3着(11番人気) |
| ショウナンガルフ | ハービンジャー | ポートアイランドS11着 |
| ショウナンハヤナミ | レイデオロ | 若駒S1着、神戸新聞杯10着 |
| ジャスティンシカゴ | スワーヴリチャード | セントライト記念1着(12番人気) |
| ダノンヒストリー | エピファネイア | 2600mを2連勝(阿寒湖特別1着) |
| チャリングクロス | キタサンブラック | 町田特別1着、日本海S7着 |
| ナリタエスペランサ | キタサンブラック | 帆柱山特別(2600m)1着 |
| バステール | キタサンブラック | 弥生賞1着、ダービー3着 |
| マジョレルブルー | コントレイル | 能勢特別1着まで3連勝 |
| ミッキーファルコン | エピファネイア | 積丹特別(2600m)1着 |
| ラージアンサンブル | ベンバトル | すみれS1着、セントライト記念7着 |
特別登録の時点。出走できるのは最大18頭です。
ダービー2着のパントルナイーフは登録がありません。春にロブチェンと際どい勝負をした馬の中では、神戸新聞杯でタイム差なしまで迫ったアルトラムス、ダービー3着のバステール、ダービーで上がり最速を使ったゴーイントゥスカイあたりが再戦組になります。コントレイル産駒が3頭いて、父の三冠を受け継ぐ側として出てくるのも面白い構図です。
まとめ 追い風と向かい風
| 追い風 | 向かい風 |
|---|---|
| 神戸新聞杯を勝った二冠馬は3頭とも三冠達成 | ダービー・神戸新聞杯ともに2着馬とタイム差なし |
| 逃げても差しても勝てる自在性 | 2021年以降、神戸新聞杯組の勝ち馬なし |
| 父ワールドプレミア、祖父ディープインパクトの菊花賞血統 | 父の産駒は長距離のデータがまだ少ない |
| 皐月賞レコード、ダービー史上4位の時計という能力 | 騎手・厩舎ともに菊花賞は未勝利 |
| 牝馬三冠を経験したコンビ | 夏に長距離を使ってきた上がり馬が多い |
並べてみると、追い風のほうが少し強いかな、というのが僕の感覚です。二冠馬が神戸新聞杯を勝って菊花賞に来たときの3戦3勝は、やはり重い数字です。
そのうえで気になるのは、勝ち方の「余裕のなさ」。三冠馬たちは春のうちに、2着馬をはっきり突き放していました。ロブチェンはいつもギリギリで勝ってきた馬で、それは勝負強さでもあり、能力差がそこまで大きくないということでもあります。3000mという、ごまかしの利かない距離でその差がどちらに出るか。
10月25日、京都の直線。ゴール板を先頭で駆け抜けたら、父と祖父が勝った同じ舞台で、史上9頭目の三冠馬の誕生です。
データはTARGET frontier JV(JRA-VANデータ)から1986年以降を集計。タイム差は走破タイムの差(0.1秒単位)。
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