前に「逃げ馬メーター」というものを作りました。出走各馬がハナを切る確率を出すアプリです。あれを動かしているうちに、当たり前のことを思ったんですよね。
じゃあ、差し馬はどうなんだと。
そもそも差し馬は届かない
先に自分の感覚を数字で確かめておきたくて、TARGETのデータを2021年から2026年まで、25万3732走ぶん集計してみました。4コーナーの位置を頭数で割って、脚質ごとの3着内率を出したのがこれです。
| 脚質 | 3着内率 |
|---|---|
| 逃げ | 44.5% |
| 先行 | 30.3% |
| 差し | 14.1% |
| 追込 | 5.1% |
追込が5.1%。20回に1回です。まあ、そうだろうなと思っていたのですが、こうしてはっきり出ると腹が決まります。上がり3Fが速い馬は毎週たくさんいるけれど、そのほとんどは馬券に絡まないまま終わっている。
だから僕が知りたいのは「末脚が速い馬」ではなくて、「その脚で実際に3着以内まで来る馬」でした。上がり最速で4着に突っ込んでくる馬は、正直、僕にとってはどうでもいいんです。
僕が出した条件
Claude Codeに投げた注文は、だいたいこんな内容でした。
- 上がり3Fが上位でも3着に来ない馬は数えない
- 注目するのは、ラスト200mを加速しているレースで、後ろから3着以内に来た馬
- ラップを見ると分かるけれど、最後の200mは落ちることの方が多い。そこを加速している馬は価値がある
- ただし新馬戦や未勝利戦みたいに前後半のラップ差が激しいレースは度外視
- 前半は平均ペースで、後半が加速するレースに注目したい
これを実データに当てはめてもらいました。
そうしたら、確かに段階的に良くなっていったんです。「差して3着内」だった馬の次走の複勝率を追いかけると、36.2%(差して3着内なだけ)から、上がり1位を足して37.6%、ラスト200mの加速を足して39.0%、前半が前傾でないことを足して42.3%。きれいに上がっていきました。
ちなみにこのとき、追込(4角で最後方グループ)を外すと45.0%までもう一段上がることも分かりました。ただ数字が良くなるからといって切るのも違う気がして、追込は差しと同じ扱いのままにしています。脚質は画面に出すだけで、点数には効かせていません。
ここまでは気分がいい。実際この時点で、僕はほぼ完成したつもりでいました。
思い込みが崩れた1回目:前半のペースは前3Fでは測れない
「前半は平均ペース」を判定するのに、素直に前半3Fのタイムを使いました。速いレース、平均のレース、遅いレースに分けて、ラスト200mの加速率を見たわけです。
結果、どの帯も加速率が20%前後で横並び。まったく効きませんでした。
考えてみれば当たり前で、前3Fのタイムは距離やコースによって意味が変わります。1200mの前3Fと2400mの前3Fを同じ物差しで見ていたんですね。
そこでRPB(レースの前後傾を1つの数字にしたもの。前傾がマイナス、後傾がプラス)に置き換えたら、今度ははっきり出ました。
- 前傾のハイペース(RPB −4以下)で差した馬 … 次走の複勝35.8%、その後も差して3着内に来る率13.4%
- 平均からスローで差した馬 … 複勝41.6〜45.6%、再現率16.9〜19.5%
前が勝手に止まっただけの差しは、次に繋がらない。 頭では分かっていたつもりでしたが、数字で見ると迫力が違います。
差し率という形にした
条件が固まったので、「この馬が今回、後ろから来て3着以内に入る確率」を出す形にしました。16万3670走で学習させて、学習に使っていない2025〜26年で答え合わせをしています。
| 予測 | 実際 |
|---|---|
| 4〜6% | 4.6% |
| 9〜13% | 11.4% |
| 13〜20% | 15.8% |
| 20%超 | 21.7% |
言ったとおりには来ている。レース内で差し率1位に推した馬が実際に差して3着内に来るのは16.9%で、ランダムなら5.8%ですから、まあ機能はしているのかなと。
ただ、この時点ではまだ大きな穴が空いていました。
思い込みが崩れた2回目:コースを見ていなかった
「東京と中山と京都で、同じ1800mでも上がりは違うんじゃないか」と思って調べてもらったんです。軽い気持ちでした。
出てきた数字が予想以上でした。場と回りと距離で81コースに分けると、差しの決まりやすさが3.9倍違う。阪神・芝外回り2400mの13.1%に対して、小倉のダート1700mは3.3%。同じ芝2000mですら、東京11.7%・新潟外回り11.4%に対して、札幌5.6%・福島6.8%です。上がり3Fの水準そのものが、東京34.4秒に対して福島35.9秒と1.5秒違う。
そしてもっと厄介なことに気づきました。ラスト200mがどれだけ落ちるかも、コースごとに最初から決まっているんです。
- 新潟・外回り2000m … 平均で0.79秒落ちる。加速ラップが出るのは1%だけ
- 福島2000m … 平均0.18秒しか落ちない。31%が加速ラップ
長い直線では全馬が最後まで脚を使うので、ラスト200mは必ず落ちます。逆に小回りは道中が緩むので、勝手に加速する。
つまり僕の「ラスト200mを加速している」という条件は、小回りの安いラップを拾って、東京や阪神外回りの本物を取り逃がしていたわけです。
コース平均と比べる形に変えた
そこで判定を「そのコースの平均より0.4秒以上速いか」に変えました。決め手になったのがこの比較です。
| 件数 | 次走の複勝 | 単勝回収 | |
|---|---|---|---|
| 絶対基準だけが拾っていた走 | 70 | 41.2% | 16%(勝率4.4%) |
| コース比だけが拾う走 | 136 | 47.5% | 107% |
絶対基準だけが拾っていた70件は、ほぼノイズでした。逆に取り逃がしていた136件の方に、価値が固まっていた。自分の出した条件が自分で足を引っ張っていたわけで、これは正直こたえました(^^ゞ
新しい基準で該当するのは6年で284走・266頭だけです。付いた馬の次走は勝率21.2%・複勝45.8%・単勝回収94%。その後も「差して3着内」に来る率が、全体の10.3%に対して18.0%に上がります。
分かりやすい例が、今年の札幌記念のシェイクユアハートでした。
12.4 - 10.2 - 11.6 - 12.8 - 12.4 - 11.8 - 11.9 - 11.8 - 11.9 - 11.4
ラスト200mが11.4。その手前が11.9なので0.5秒速い。札幌2000mの平均は0.29秒「落ちる」コースなので、平均より0.79秒速かったことになります。これを4角8番手から上がり34.6秒のメンバー最速で差し切った。
逆のパターンも面白くて、2024年10月20日の新潟・芝2000mの平場でメイショウノブカという馬が2着に来ています。この馬のレースはラスト200mが11.6から11.7で、数字だけ見れば「0.1秒落ちて」いる。絶対基準なら加速ではありません。でも新潟の外回りは普通なら0.79秒落ちるコースです。0.1秒で済んだということは、平均より0.69秒速い。4角15番手、つまり最後方から上がり33.4秒のメンバー最速でした。これを拾えなかったら何のための指標かという話です。
副産物のコース図鑑
コースごとの基準表を作ったので、それをそのまま見られるページにもしました。81コースを、ラップの出方だけでグループ分けしています。右回り左回りも坂の有無も入れていません。純粋にラップの形だけです。
それでも、体感と合う分かれ方になりました。
- 直線長い・止まらない(阪神外・新潟外・中京)… 加速ラップが出るのは4%。差し率は最も高い
- 中距離ミックス(東京・京都外・中山の中距離)… 形状はまるで違うのに、ラップの出方が同じ
- ローカル小回り(小倉・福島・札幌・函館+京都の内回り)… 加速ラップは25%も出るのに差し率は低い
東京2000mと中山2000mが同じグループに入ったのは意外でした。直線の長さがまるで違うのに、前半が緩んで後半じわじわ速くなってラストがわずかに落ちる、という形が一致している。逆に言うと、ラップを決めているのは直線の長さではなくて「どこからスパートが始まるか」なんですね。
京都の内回り2000mが小倉・福島と同じ群に入ったのも、3〜4コーナーの下りでペースが緩むことを考えると腑に落ちます。
思い込みが崩れた3回目:ラスト5F加速が最高、ではなかった
最後にもう一つ入れたのが、レースそのものの型の判定です。
ラップを刻んでいるのは先頭の馬です。その先頭が緩めないまま押し切ろうとしているレースを後ろから差し切るのは、相当の脚がいる。だったら「どこから緩めなかったか」でレースを格付けできないかと考えました。
僕の予想は「ラスト5F(1000m)から緩めないのが最高で、次が4F」でした。長く緩めないほど厳しいはずですから。
これは半分外れました。
| 前半ペース | 後半 | 件数 | 勝率 | 複勝 | 単勝回収 |
|---|---|---|---|---|---|
| ほぼ平均 | ラスト3F以上緩めず | 138 | 22.7% | 51.6% | 114% |
| ほぼ平均 | 2F以下 | 919 | 14.7% | 39.8% | 64% |
| やや遅い | 3F以上 | 135 | 14.5% | 46.6% | 48% |
| かなり遅い | 3F以上 | 77 | 15.5% | 40.8% | 67% |
5F・6Fの例を調べてもらったら、道中がスローなレースばかりでした(RPBの中央値が+5.3と+5.7。3Fの場合は+2.4)。緩んだところから長く上げただけで、厳しいレースではなかったんです。
長さだけでは足りなくて、前半が平均ペースであることが条件だった。自分が最初に言った「前半は平均かやや遅いペースで」という前提の方が、実は効いていたという落ちです。
使い方と、初日の答え合わせ
出馬表が登録されたらバッチをダブルクリックして、その日の特別レースをまとめたHTMLが開きます。レース結果が入ると、コーナー通過順位が表示されて、狙った馬に色が付きます。どこにいて、そこからどう動いたかが追える。
で、できたばかりなので実戦はこれからです。試しに8月16日の10レースで答え合わせをしてみたら、差し率1位の的中は0/10、上位3頭のどれかで3/10でした。散々ですね(^^ゞ
もっとも10レースでは何も言えません。逃げ馬メーターのときも、3〜4開催ぶん溜まるまでは重みをいじらないと決めていました。1開催の結果でパラメータをいじるのは、ただの過剰適合ですから。しばらくは黙って溜めます。
作ってみて思ったこと
正直、いちばん面白かったのは自分の思い込みが3回崩れたところでした。前半のペースは前3Fでは測れなかった。加速ラップの判定はコースを見ないと成立しなかった。ラスト5F加速は最高ではなかった。
どれも「言われてみればそうだよな」という話です。ただ、言われるまで気づかなかった。データに当ててみないと分からないことが、まだこんなにあるんだなと。
一つだけ、期待しすぎないように書いておくと、この指標で単勝回収率が上がるわけではありません。人気薄の一発を当てる道具でもない(★が付いた馬の次走も、7番人気以下では成績が伸びませんでした)。上位人気の差し馬を「これは信じていい」「これは前が崩れただけ」と分けるための物差しです。
競馬予想が当たるかどうかは別として、自分が見たかったものを自分で作れたのは、やっぱり面白いです。
※本アプリは個人使用を目的に作成しています。データはPC内で完結していて、インターネットには公開されません。
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