外厩施設まとめ⑤|外厩は馬券には効かなかった。ではなぜこれほど広がったのか、馬房を数えて分かったこと

外厩
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ここまで4本、外厩をひたすら数えてきました。348施設あって上位10で半分。ノーザンはノーザンへ、社台は社台へ。短く使うか長く置くかは調教師が決めていて、ただし施設によっては裁量が効かない。

地図はだいたい描けました。それで、そろそろ本題です。

外厩の情報って、馬券に効くんでしょうか。

「天栄帰りで」と聞くと買いたくなります。実際そういう言われ方をしますし、休み明けの評価材料として定番です。でも4本書いてきて気づいてしまったことがあって、これ、素直に集計したら間違えるなと。

素直に集計すると、間違えます

理由は簡単で、外厩の行き先が資本のつながりで決まっているからです。

ノーザンファーム天栄に行く馬は、ノーザンファーム生産で、サンデーレーシングやシルクレーシングの名義で、木村哲也厩舎や国枝栄厩舎にいます。そりゃ走ります。天栄の仕上げが良いからではなく、最初から強い馬が天栄に行っているんです。

だから「天栄帰りの複勝率」を出しても、天栄の効果ではなく馬の質を測っているだけになります。

これを避けるには、馬の質を揃えて比べるしかありません。一番手っ取り早いのは人気です。同じ1番人気同士、同じ4番人気同士で比べる。

やってみました。放牧を挟んだ馬(外厩帰り)と、前走後もトレセンにいた馬(在厩継続)の比較です。

人気帯 状態 頭数 複勝率 複勝回収率
1番人気 在厩継続 5,178 66.6% 84.5
1番人気 外厩帰り 9,075 65.7% 85.9
2-3番人気 在厩継続 10,493 48.5% 82.2
2-3番人気 外厩帰り 17,641 46.4% 82.2
4-6番人気 在厩継続 16,014 27.9% 75.9
4-6番人気 外厩帰り 25,841 27.7% 79.8

ほとんど同じです。むしろ1番人気と2-3番人気では外厩帰りのほうがわずかに低い。

10番人気以下だけ3.8%対4.8%と外厩帰りが上回りますが、複勝回収率は56.3から66.8。上がってはいるものの、100%には遠く及びません。

人気を揃えなければ「外厩帰りは買い」という結論が出ていたはずです。危ないところでした。

5つ試して、残ったのは1つでした

状態区分だけでは物足りないので、他の切り口も試しました。

在厩日数。帰厩してから何日目に使うか。これは弱いながら差が出ました。14〜30日が最も良くて、31日以上と13日以内が落ちる。逆U字です。レース間隔と人気を固定しても残りました。ただし効果は1〜4ポイントで、複勝回収率は最高でも80%台。買い材料ではなく、減点材料にしかなりません。

放牧日数。外厩に何日いたか。これは不成立でした。レース間隔との相関がr=0.99。つまりレース間隔とほぼ同じ変数で、別の情報を持っていません。休み明けの馬は放牧も長い、というだけの話でした。

在厩比率。レース間隔のうち何割をトレセンで過ごしたか。これは筋が良さそうに見えました。1〜3番人気の休み明けで、外厩に長くいた群と早く帰厩した群の複勝率が4.2ポイント違う。統計的にも一応の水準です。

で、採用する前に期間を前後で割ってみたんです。

2021-23 2024-26
1-3番人気・休み明け +7.0pt +1.8pt
4-6番人気・中4-10週 +5.2pt +1.0pt

前半で出ていた差が、後半では消えていました。全期間で見たときの4.2ポイントは、前半の7.0が効いていただけです。

これ、自分でも危なかったなと思っていて。全期間で有意に見えても、期間を割ると持たない。σが出たから採用、をやっていたら間違ったルールを作っていました。

結局、5つ試して残ったのは在厩日数ひとつ。それも減点方向にしか使えない。複勝回収率が100%を超える切り口は、ひとつも見つかりませんでした。

では、なぜこれほど広がったのか

ここで手が止まりました。

馬券に効かないなら、なぜ外厩がこんなに普及したんでしょう。348施設もできて、上位施設には年間1万件以上が集まっている。誰かが得をしていないと、この規模にはなりません。

考えているうちに、そもそも見ている場所が違うのかもしれないと思い当たりました。僕は馬券を買う側から見ていましたが、外厩を使うのは厩舎です。厩舎にとっての損得で見ないといけない。

そこで馬房を数えることにしました。

トレセンの馬房はJRAからの貸付で、数が決まっています。2025年3月時点で美浦1,932、栗東1,906。1厩舎あたりの中央値は20馬房です。

ところが登録している馬の数を調べると、中央値は46頭でした。

20の馬房で46頭を管理している。

そりゃそうです。全部の馬が同時にトレセンにいるわけがない。放牧に出ている馬は馬房を使いません。つまり外厩に出せば出すほど、馬房を空けて多くの馬を抱えられる。

馬房は動かないのに、登録馬数だけ増えます

外厩の利用率で調教師を5等分して、馬房数と登録馬数を並べてみました。

外厩利用率 人数 馬房数 登録馬数 登録馬÷馬房
30〜53% 35 20.3 39.9 1.95倍
53〜59% 35 20.4 45.3 2.23
59〜63% 35 20.7 48.4 2.35
63〜68% 35 20.9 49.0 2.34
68〜89% 36 21.1 54.3 2.59倍

馬房数は20.3から21.1で、ほとんど動きません。それなのに登録馬数は39.9頭から54.3頭へ、36%増えています。

相関で見るともっとはっきりします。

r
外厩利用率 × 馬房数 +0.116
外厩利用率 × 登録馬数 +0.463
外厩利用率 × 登録馬数÷馬房数 +0.538

外厩をよく使う厩舎が馬房を多くもらっているわけではありません(r=+0.116)。同じ馬房で、より多くの馬を回している。

同じ厩舎の前年比で見ても同じでした。外厩の利用率を5.7ポイント上げた年は管理頭数が2.8頭増え、下げた年は2.5頭減る。厩舎の実力や馬質を固定しても、頭数だけが動きます。

そして勝率は動きません。前年比の相関でr=+0.016。ほぼゼロです。

頭数が増えると、成績は変わります

登録馬数で調教師を3等分すると、こうなりました。

登録馬数 人数 馬房数 現役馬の通算勝利 現役馬の通算賞金
少ない1/3 58 19.3 40.1 5,377万
中位1/3 58 20.0 49.0 8,379万
多い1/3 60 22.6 72.3 14,772万

賞金が2.7倍です。

重賞は数え方の基準が違うので別に出しました。2024年以降の重賞勝利数を同じ3等分で見ると、0.41勝・1.00勝・3.88勝。9.5倍になります。頭数を持てる厩舎ほど大きいレースを勝っている、ということですね。

競馬をご覧になっている方の感覚どおりだと思います。管理馬が多い厩舎は成績がいい。

ただし、パイは増えていません

面白いのはここからで。

JRAの年間レース数は決まっています。2022年から2025年で外厩の利用率は55.5%から59.7%に上がりましたが、のべ出走回数は47,220から47,884。+1.4%しか増えていません。

増えたのは出走した実頭数のほうでした。11,557頭から11,930頭で、+373頭。

つまり外厩が普及して起きたのは、同じ出走枠を、より多くの馬で分け合うようになったということです。1頭あたりの年間出走は、その分だけ減っています。

効く場所が違いました

まとめると、こういうことみたいです。

外厩は勝率を上げる装置ではなく、頭数を増やす装置でした。

厩舎の収入は勝利賞金だけで立っているわけではなくて、頭数に比例する預託料があります。馬房が20しかなくても46頭抱えられるなら、そのぶん収入が変わる。勝率が1ミリも動かなくても、経営は変わるんです。

馬主にとっては預け先の受け皿が広がります。馬房が空かなければ、そもそも馬を持てません。生産者にとってはJRAで走れる馬の総数が増える。売れる馬が増えるということです。

馬券に効かないのは当然でした。効く場所が、そもそも僕の見ていた場所ではなかったということですね。

それで、このデータはどうするのか

とはいえ、です。

せっかく6年分の外厩データが手元にあって、予想には効かないと分かってしまった。ここで終わりにするのも、なんだかもったいない話でして。

ひとつ気になっていることがあります。帰厩してから13日以内でレースに使う馬って、一週前の追い切りをどこで消化しているんだろう、と。まだ外厩にいるはずなんですよね。だとすると、その馬の調教データは普通の馬と同じように読んでいいんだろうか。

このへんを確かめてみようと思っています(^^ゞ

※ 集計はJRDBの外厩データとTARGET frontier JVの成績データを突き合わせたものです。期間は2021年7月31日から2026年8月9日まで、239,727走。馬房数はJRAが2025年2月に発表した「調教師別貸付馬房数一覧表」から、登録馬数はTARGETの調教師別集計(現役馬)から取りました。回収率の数字は、その条件で買い続けた場合の理論値です。

外厩名鑑 2021-2026|調教師・馬主・生産者はどこに預けているか
JRA全レース23万9,727走から集計した外厩データベース。調教師209人・馬主445・生産者397を名前で検索でき、外厩の利用率、帰厩からレースまでの日数、預け先の集中度で並べ替えられます。

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