社台スタリオンステーションが毎年公表している「繋養馬 各年シーズン 種付頭数」の資料を、2021年から2026年までの6年分まとめました。そのうえで、TARGET frontier JVから抽出した産駒のJRA成績と種付料に突き合わせ、種付頭数を動かしている要因を調べています。
対象は6年間に社台SSで繋養された延べ43頭、種付24,627頭分。産駒は2014年から2024年生まれの15,438頭、その98,457走を集計しました。
結論を先に書くと、種付頭数を動かしているのはG1でも重賞でも獲得賞金でもありませんでした。
6年間の総種付頭数は3,932頭から4,376頭で動いていない
まず全体像です。年間の総種付頭数は6年とも3,932頭から4,376頭の幅に収まっており、振れ幅は11%しかありません。繋養されている種牡馬の数も、毎年30頭から33頭で安定しています。
この6年で新しく供用が始まったのが13頭、社台SSの表から消えたのが12頭。2021年にいた30頭のうち2026年も残っているのは18頭です。
つまり枠の数も総量もほとんど変わっていません。個々の種牡馬の増減は、需要全体が伸びたり縮んだりした結果ではなく、限られた枠の奪い合いの結果として読む必要があります。ある種牡馬が増えたなら、その分どこかが減っています。
新種牡馬は初年度がピークではない
集計前に想定していたのは、新種牡馬は話題性が先行して初年度に集まり、産駒が走り出すと現実に引き戻されるという筋書きでした。
実際に数えると、この6年に登場した新種牡馬のうち初年度がその後の最高値だったのは12頭中4頭だけです。在籍4年以上に絞ると7頭中1頭。2年目の増減も中央値101%で、増える馬と減る馬がほぼ半々でした。
初年度がピークになるという形は、データからは出てきません。
G1・重賞・獲得賞金は翌年の種付頭数と無関係
種付の申し込みはそのシーズンが始まる前に決まります。したがって判断材料は前年12月末までの成績に限り、あとから判明した結果は混ぜていません。この線引きを緩めると、実際には誰も知り得なかった情報で「予測できた」と言うことになってしまいます。
この条件で88組を調べた結果が次のとおりです。
- 前年のG1勝ち数との相関 -0.05
- 前年の重賞勝ち数との相関 -0.03
- 前年の総獲得賞金との相関 -0.08
- 産駒の出走頭数との相関 -0.12
いずれもゼロ近辺です。G1を勝った種牡馬に繁殖牝馬が集まるという素朴なイメージは、支持されませんでした。
効いているのは勝率と2歳勝ち上がり率だけ
同じ条件でプラスに出たのは2つだけでした。前年の勝率が+0.29、産駒の2歳勝ち上がり率が+0.23です。
いずれも「量」ではなく「率」であることが共通しています。何頭が勝ち上がったかではなく、送り出したうちの何割が勝ち上がったか。大きな1勝より、全体の歩留まりが見られています。
2歳勝ち上がり率の下位3分の1だけが、29組中27組で減少した
相関の値だけを見ると+0.2台で弱い関係に見えます。ところが2歳勝ち上がり率の高い順に87世代を3つに分けると、線形ではない形が出てきました。
- 上位3分の1(勝ち上がり率27〜46%) 翌年の種付頭数の中央値 -3%
- 中位3分の1(18〜26%) 中央値 -2%
- 下位3分の1(4〜17%) 中央値 -29%
上位と中位に実質的な差がありません。よく走っても増えないということです。ところが下位だけが急に落ち込み、29組のうち翌年に増えたのは2組しかありませんでした。
良し悪しが対称に効いていない。報酬はなく、罰だけがある構造です。
具体例を挙げます。2024年のシスキンは産駒がまだ5頭しか走っておらず、重賞勝ちもありませんでした。ただ、その5頭のうち3頭が勝ち上がっています。翌2025年の種付頭数は73頭から188頭に増えました。
一方、2025年のダノンキングリーは産駒27頭が走って勝ち上がりが3頭。翌2026年は170頭から41頭に減っています。
重賞を勝っていない点では両者は同じで、違ったのは勝ち上がりの率だけでした。
種付の申し込みは前年12月には締め切られている
ここまでは前年の成績だけを見ていますが、種牡馬の評価はもっと長い時間をかけて固まるはずです。産駒は2歳で走り、3歳でクラシックを走り、4歳で古馬になります。同じ世代の情報が数年かけて届く以上、前年だけで切るのは粗すぎます。
そこで重要になるのが、種付の申し込みがいつ締まるかです。種付が行われるのは2月頃から7月頃で、多くの牧場や種馬場でピークを迎えるのは4月から5月。皐月賞やダービーで産駒が走った時点で、その年の種付はすでに始まっています。
これは資料そのものが答えを持っていました。
2022年シーズンの種付料表には「2021年12月22日現在」の日付が入っており、その時点で10頭に「Bookfull(予定数に達したので受付を終了しました)」が付いています。種付が始まるのは翌年2月です。同様に、2021年シーズンは2月10日時点で31頭中12頭、2023年シーズンは2月28日時点で32頭中15頭、2024年シーズンは2月26日時点で32頭中13頭が満口でした。
帳簿はシーズンが始まる前、年内には閉じ始めています。クラシックの結果が種付頭数に表れるとしたら、どんなに早くても翌年ということになります。
2歳の成績は1年後に、3歳の成績は2年後に効く
産駒の成績を2歳・3歳・4歳に分け、それぞれが何年後の種付頭数と結びつくかを総当たりで測りました。年ごとの当たり外れを打ち消すため、その年・その年齢層の中での勝率順位に直してから比較しています。
| 1年後 | 2年後 | 3年後 | |
|---|---|---|---|
| 2歳の成績 | +0.44 | +0.04 | +0.22 |
| 3歳の成績 | +0.23 | +0.32 | +0.40 |
| 4歳の成績 | +0.20 | +0.09 | -0.16 |
数字は相関、太字は統計的に意味のある差です。
2歳の成績は翌年に強く効き、そのあと消えます。効くのは一度だけです。
3歳は逆で、翌年より2年後・3年後のほうが強く出ました。3歳成績の上位半分と下位半分で種付頭数の増減を比べると、1年後の差は8ポイント(-14%と-22%)ですが、2年後は20ポイント(-1%と-21%)まで開きます。遅れて効き、しかも長く残るということです。
これは帳簿が閉じるタイミングで説明がつきます。2歳の勝ち上がりは秋から暮れにかけての情報なので、翌年の申し込みに間に合う。一方でクラシックは春に行われるため、その年の帳簿には間に合いません。翌年の帳簿にしても、3歳秋の成績を見てから決める向きがあります。結果として2年かかります。
4歳以上は、1年後も2年後も3年後も検出できませんでした。ただし4歳の標本は21組から49組と薄いため、「関係がない」ではなく「このデータでは見つけられなかった」と受け取るのが妥当です。
値上げした年ほど種付頭数は減っていない
種付料についても、公表の料金表から2021年から2025年の5年分を拾って重ねました。PRIVATE(非公表)の馬は除いています。
改定した109組を向きで分けた結果です。
- 値上げした29組 種付頭数の増減は中央値 +2%
- 据え置いた50組 中央値 -11%
- 値下げした30組 中央値 -6%
値上げした年ほど頭数が減っていません。価格が需要を抑えているのではなく、需要を確認したうえで価格が付けられていると読むのが自然です。
最も極端なのがスワーヴリチャードでした。2023年に産駒のレガレイラがホープフルステークス、コラソンビートが京王杯2歳ステークスを勝った翌2024年、種付料を200万円から1,500万円へ7.5倍に引き上げながら、頭数は90頭から150頭に増えています。
裏を返すと、据え置きの-11%が示しているのは、何もしなければ頭数は静かに減っていくということでもあります。
説明できていない2頭:コントレイルとレイデオロ
ここまでの形で全部が説明できるわけではありません。特に2頭が残りました。
コントレイルは2026年に185頭から90頭へ半減しています。2025年の産駒は80頭が走って19頭が勝ち上がり、率にすると23.8%。3分位でいえば中位で、下位の崖には落ちていません。種付料が1,800万円という高い位置にあったことと無関係ではなさそうですが、2026年シーズンの料金表が手元になく、確かめられていません。
レイデオロは2024年に39頭まで落ちたあと、2026年は213頭まで戻しました。産駒は2025年に重賞を4勝していますが、アドマイヤテラの目黒記念、サンライズアースの阪神大賞典、トロヴァトーレのダービー卿チャレンジトロフィー、エキサイトバイオのラジオNIKKEI賞と、いずれもG2とG3でG1はありません。2025年に種付料を250万円まで下げたこと、産駒191頭が69勝を挙げて出走数そのものが多かったことは効いていそうですが、2年で3.5倍という戻り幅を説明するには足りません。
この集計の限界
結論を使う前に、次の4点を承知しておく必要があります。
第一に、標本が薄いことです。年齢と遅れの総当たり9マスは21組から88組で、有意になった3マス以外は誤差と区別がつきません。6年分では母数が足りず、特に4歳以上の結論は保留すべきです。
第二に、社台スタリオンステーションの中だけの話であることです。他の種馬場へ移った後の頭数は含まれず、移動と減少が区別できません。ニューイヤーズデイのように2025年から優駿スタリオンステーション繋養となった馬は、社台SSの表から消えるだけで供用は続いています。
第三に、繁殖牝馬の質を見ていないことです。頭数は数えていますが、集まった繁殖牝馬の中身は測っていません。同じ150頭でも質は違うはずで、本来はそこが評価の実体です。
第四に、示せたのは相関であって因果ではないことです。時間の前後は揃えていますが、種付料・供用年数・産駒の頭数はいずれも互いに絡んでおり、個別の効果を切り分けてはいません。
まとめ
6年分を並べて分かったことを整理します。
社台スタリオンステーションの種付枠は総量も頭数も固定されており、個々の増減は枠の奪い合いです。その配分を動かしているのはG1でも重賞でも賞金でもなく、産駒の勝ち上がり率でした。しかも良い方向には効かず、悪い方向にだけ働きます。よく走っても増えず、走らないと切られる。
情報が届く速度は年齢によって違います。2歳の成績は翌年に一度だけ効き、3歳の成績は2年後から3年後にかけて効きます。種付の帳簿が前年12月には閉じ始めるため、春のクラシックはその年に間に合わないからです。
種付料は需要を抑える装置ではなく、需要を確認した結果として付けられていました。
種付頭数の多寡が実際に強い産駒につながるかどうかは、また別の検証が必要です。
※種付頭数と種付料は社台スタリオンステーションの公表資料、産駒成績はTARGET frontier JVのデータから集計しました。2022年と2024年の種付頭数の資料、および2021年から2023年の種付料の資料はPDFにテキスト情報がないため、画像から読み取っています。処理はすべて手元のPC内で完結しています。
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