レース前の下馬評と上位人気馬の背景
2025年4月20日、中山競馬場芝2000mでクラシック三冠初戦となる第85回皐月賞(GⅠ)が行われました(良馬場、曇)。この年の皐月賞は「無敗対決」とも称され、デビュー以来負けなしの馬が複数存在する注目の一戦でした。特に単勝オッズ1.5倍という圧倒的人気を集めたクロワデュノールと、同じく無傷の3連勝で駒を進めてきたエリキングの対決にファンの期待が高まりました。さらに朝日杯FS2着馬で巻き返しを期すミュージアムマイル、重賞勝ち馬マスカレードボール、きさらぎ賞馬サトノシャイニングと実力馬が揃い、「今年の皐月賞はハイレベル」と評されていました。
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クロワデュノール(牡3) – 父キタサンブラック、母ライジングクロスという良血馬で、前年のホープフルSを制した2歳王者です。斉藤崇史調教師が手がける栗東馬で、生涯成績3戦3勝の無敗馬として“三冠候補”筆頭に挙げられました。その名はフランス語で「北の十字星」を意味し、陣営は「イクイノックス級の器」と評する声もあるほど素質を高く評価していました。デビュー戦を圧勝するなど圧巻の内容で3連勝とし、ここも「一強ムード」を漂わせていました。
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サトノシャイニング(牡3) – 父キズナ、馬主は里見治氏(サトノ軍団)で、杉山晴紀調教師(栗東)が管理。2歳時は東スポ杯でクロワデュノールに差のない2着などがあり、年明け初戦のGIIIきさらぎ賞を快勝して頭角を現しました。クラシックへの直行ローテとなったため実績ではクロワデュノールに及ばないものの、その末脚と成長力に注目が集まり2番人気に支持されました。
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ミュージアムマイル(牡3) – 父リオンディーズ(母父ハーツクライ)という瞬発力自慢の血統で、馬主はクラブ法人のサンデーレーシングです。高柳大輔調教師(栗東)の管理馬。2歳暮れの朝日杯FSではアドマイヤズームの2着に健闘し、クラシック候補の一頭でした。前走の弥生賞ディープ記念では1番人気に推されながら4着と敗退しており、この本番での巻き返しを期してジョアン・モレイラ騎手との新コンビを結成して挑みました。「弥生賞で1番人気→皐月賞制覇」は実に29年ぶり3頭目(1966年ニホンピロエース、1996年イシノサンデー以来)というデータもあり、下馬評では“不安を払拭できるか”が論点となりました。とはいえ昨年の2歳王者に次ぐ実績馬であり、単勝3番人気と高い支持を集めました。
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マスカレードボール(牡3) – 父ドゥラメンテ(2015年日本ダービー馬)、母マスクオフという血統で、社台レースホースの持ち馬です。美浦・手塚貴久厩舎に所属。昨年末のホープフルSでは11着に敗れたものの、年明け初戦の共同通信杯(GIII)で古馬顔負けの鋭い差し脚を発揮し重賞初制覇。東京向きの末脚を持つ一方で中山コース適性が課題とも言われ、第4人気となりました。鞍上には横山武史騎手を迎え、「能力だけでここまで来た」と評される未完の大器がどこまで通用するか注目されました。
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エリキング(牡3) – 父キズナ、母ヤングスター(母父ハイシャパラル)という欧州色も感じさせる配合で、馬主は藤田晋氏。栗東・中内田充正厩舎の管理馬です。デビューから3戦無敗で、クロワデュノールと同じくここまで敗北を知らない異色の存在でした。京都2歳Sではジョバンニを子ども扱いしていることからも計り知れない潜在能力に「危険な人気馬」との声もあったほどです。調整中に骨折明けを感じさせない動きを見せ「現状の力は発揮できる」と中内田調教師が太鼓判を押すなど、状態面は万全と伝えられました。関東への長距離輸送も初でしたが無事クリアし、川田将雅騎手とのコンビで5番人気に支持されました。
以上のように個性豊かな有力馬が顔を揃え、ファンやメディアの期待も高まっていました。「無敗馬対決」「2歳王者vs巻き返し組」「東西の重賞馬激突」といったストーリーが交錯し、レース前から熱狂的な競馬ファンの間では様々な戦術予想や展開議論が交わされていたのです。
当日の馬場コンディションとレース展開の鍵
レース当日の中山競馬場は曇り空の下、芝コースは良馬場発表となりました。春開催後半に入りB→Cコースへの柵移動が行われており、内柵が外側に設置されたことでコース幅は狭まり、外枠勢にはややロスが生じやすい条件です。しかし芝自体のコンディションは良好で、レース前半からタイムは速めに推移していました。高速決着への対応力と立ち回りの巧拙が勝負の分かれ目になると予想され、各騎手ともペース配分や位置取りが極めて重要になる状況でした。
スタート直後からハイペースになりすぎれば差し馬に展開が向き、一方でスローペースの瞬発力勝負になれば先行勢や決め手上位馬が有利と見られていました。また中山2000m特有のコーナー4つの小回りコースであるため、機動力とコーナーワークも鍵です。これらを踏まえ、ジョッキー達はレース前に陣営と作戦を練っていました。マスカレードボールの横山武史騎手は「スタートしてポジションを取りたい」と手塚調教師と打ち合わせて臨み、ミュージアムマイル陣営の高柳調教師はモレイラ騎手に「ゲートさえ五分に出れば何とかなる」とスタート重視を伝えて送り出しています。各馬がそれぞれの思惑を胸に、本馬場入場の時を迎えました。
スタート~第1コーナー:主導権争いと位置取り
ゲートが開くと18頭それぞれまずまずのスタートを切りました。注目の人気馬勢では、モレイラ騎乗のミュージアムマイルは「互角に出て中団を追走」でき、高柳師が懸念していた出遅れは回避。クロワデュノールも好スタートから先団に取り付き、1コーナーへ入る時点で「ベストポジション」と北村友一騎手が振り返る絶好位を確保しました。対照的に、マスカレードボールは「スタートは相変わらず一息」(横山武史騎手)とやや鈍く、予定していた先行策は叶わず後方からの競馬を強いられます。エリキングも内枠(1枠2番)から出ましたが、周囲の出方を見ながら中団やや後ろに控える形となり、積極策には出ませんでした。一方、8枠16番という大外枠のサトノシャイニングは押して中団外目に取り付くも、1コーナーで外から内へ密集する不利を受ける場面があり、西村淳也騎手が「1コーナーで何度も当てられた」と語るように序盤からストレスの掛かる競馬を強いられました。
先頭争いは、内から飛び出した逃げ馬勢と、好位を狙う数頭が激しく火花を散らしました。スタート直後の2ハロン目が10秒2という高速ラップが示す通り、序盤は一瞬かなりのスピードが出ました。これにより隊列は縦長気味になり、逃げ馬の後ろに好位グループ、その後ろに中団~後方グループが続く形で1~2コーナーへ進んでいきます。クロワデュノールはこの時点で先行集団の外目、ちょうど絶好位のポジションを取っており、北村騎手も「1、2コーナーに入るときはベストと思った」と手応えを感じていました。ミュージアムマイルは中団やや前よりの内側につけ、モレイラ騎手は周囲の出方を冷静に観察しながら折り合いに専念します。サトノシャイニングは外々を回るロスを被りつつ中団後方に控えました。マスカレードボールとジョバンニ(7番人気)は後方グループで待機策を選択します。「中山は得意ではない」と言われるマスカレードボールだけに無理せず末脚温存に徹し、松山弘平騎手騎乗のジョバンニも「人気馬クロワデュノールの後ろを取ることができ、前半は理想の形」とライバルをマークする形で折り合いました。
一方、逃げ争いは内枠の馬がハナを主張し、12.1-10.2-12.2(200m-400m-600m)のハイラップを刻んだ後にようやく落ち着きます。前半1000m通過は59秒3と平均的なペース。先頭に立ったのは伏兵のピコチャンブラックで、人気各馬は誰も無理にハナを奪いに行きませんでした。序盤を終えて各ジョッキーが一息ついたかに見えましたが、この均衡が破られるのに時間はかかりませんでした。
向正面:予期せぬ早仕掛けと波乱の兆し
向こう正面に入るとレースは大きく動き始めます。ペースが緩んだ隙を逃さず、後方にいた数頭が一気にまくり気味に仕掛けました。勝負どころと見るや動いたのは、前走弥生賞で同じように向こう正面で動いて制したファウストラーゼン(8番人気)。ファウストラーゼンは向こう正面でハナに立ち3コーナーへ。
この予想通りの仕掛けでしたが、レースは一瞬混乱状態に陥りました。好位につけていたクロワデュノールもその煽りを受けます。北村友一騎手は「他馬に捲って来られたときに外から押し込められる形になり、引っ張らざるを得なかった」と証言しており、外から被せられる形で進路をカットされ、一旦ブレーキを踏む不利を被りました。せっかく築いた理想のポジションから下がらざるを得ず、「そこは非常にもったいなかった」と悔やむ場面でした。ジョバンニもまた「向正面で挟まれてしまう不利があり、そこでポジションが下がってしまった」と語っており、ちょうどクロワデュノールの内側にいたジョバンニが挟まれる形でリズムを崩しました。さらにその内にいたミュージアムマイルにも影響が及びます。内ラチ沿いを追走していたモレイラとミュージアムマイルは、外から急加速して斜行気味に迫る馬の“余波”をまともに受ける形となり、二度もバランスを崩す不利に見舞われました。
一瞬ヒヤリとする場面でしたが、幸いにも落馬や大きな接触事故には至らず各馬踏みとどまります。しかしレースはこのアクシデントで一変しました。向正面半ばで先頭に立ったのは、大胆にまくったファウストラーゼンでした。それを追う形で数頭が押し上げられ、序盤から先頭を切っていた逃げ馬勢は下がっていきます。クロワデュノールは一時的に中団まで位置を下げましたが、北村騎手はすぐに立て直しを図りました。「不利を食らってもリカバリーして、しっかり走っている。すごい馬です」とレース後に語った通り、動じないクロワデュノールはスタミナを消耗しつつも二の脚を使って再び前団へ取り付いていきます。
モレイラ騎手もまた冷静でした。「鞍上は慌てず、じっと仕掛けを待っていた」と回顧されているように、ミュージアムマイルに騎乗したモレイラは内で2度躓きかける不利にも動じず、馬のリズムを整え直しながら機を窺います。一方、不運だったのはサトノシャイニングです。西村淳也騎手は「向正面と何度も当てられて…終始ストレスのかかる競馬になってしまいました」と苦しい胸の内を吐露。1コーナーに続いて向正面でも接触を受け、道中ずっと馬が力み気味になってしまったのです。それでも必死に折り合いをつけ直し、最後の末脚に賭けるべく我慢の騎乗を続けました。
マスカレードボールの横山武史騎手は、この大波乱に巻き込まれることなく後方でじっと構えていました。前方で起きたペースの乱れを横目に見つつ、「慌てず自分の競馬に徹しよう」と判断します。もともと「中山はあまり得意ではないけど能力だけでここまで来た」という馬だけに、無理に動いて器用さを求めるより、直線勝負に賭ける作戦でした。結果的にこの判断が奏功し、混戦の中でもスムーズに加速体勢へ入れる準備を進めていきます。
ファウストラーゼンが飛ばしたことでレースのラップは再び速まり、3コーナー手前では隊列が大きく入れ替わっていました。残り800m標識付近から、各ジョッキーが勝負どころと判断してじわじわとポジションを上げていきます。クロワデュノールは下がった位置から盛り返し、4コーナーでは早くも先団に取り付いていました。不利を受けながらもなお自力で押し上げていくその走りに、場内からどよめきが起こります。「あれだけの不利がなければ勝っていた。本当にそれだけ」と斉藤崇師(クロワデュノール調教師)は嘆きましたが、それでもなお勝ち負けに加わろうとする愛馬の底力に「馬はよく走っている」と誇らしげでもありました。
最終コーナー~直線:技と技、末脚比べの攻防
やがて各馬は最終コーナーを迎えます。4コーナーでは依然としてファウストラーゼンが先頭でしたが、そのリードは僅か。満を持してクロワデュノールが外から馬体を並べかけ、直後の内に差を詰めてきたのはミュージアムマイルです。さらに大外からは後方に待機していたマスカレードボールとサトノシャイニングが襲いかかろうとしていました。まさに上位人気馬が激突する形で、いよいよ最後の直線勝負に突入します。
直線入口、モレイラ騎手はミュージアムマイルを進路の開けた外目に持ち出しました。内に閉じ込められるリスクを避け、馬の進路を確保する冷静な判断です。「追い出しは残り2ハロンから。直線入り口で外へ出すと鋭く伸びる」と回顧されている通り、残り400mでゴーサインが出るとミュージアムマイルは一気に加速しました。馬群の外から黒鹿毛の馬体が矢のように伸び、見る見るうちに前との差を詰めていきます。
内では北村友一騎手が渾身の手綱さばきでクロワデュノールを追っていました。早めに動いたぶん脚が上がりかけていた逃げ馬ファウストラーゼンを4コーナーで交わし去り、直線半ばでクロワデュノールが先頭に立ちます。北村騎手は後続の脚色を確認しつつ、「残り1ハロンで先頭」に立った時点で押し切り体勢を築こうと必死でした。不利を受けながらも堂々と先頭に立つ姿にスタンドのファンから大歓声が上がります。しかし、その背後ではモレイラのミュージアムマイルが猛然と迫っていました。
残り200m、クロワデュノールとミュージアムマイルの差は僅かに1馬身弱。場内モニターに大写しになる2頭の鞍上は、ともに鬼気迫る表情で追い比べます。坂を上がってから明らかに脚色が良いのは外のミュージアムマイルでした。「坂を上がってからは伸びが違っていたので、そこで勝利を確信しました」と高柳調教師が語ったように、坂上で勢いが鈍ったクロワデュノールに対し、ミュージアムマイルはさらに加速。残り100m標識付近でついに大本命クロワデュノールを外から差し切りました。
一方、その直後方では三番手争いが激化します。大外からもの凄い末脚で飛んできたのはマスカレードボールでした。「しまいは目を見張る伸びでした。今日は能力だけで来てくれた」と横山武史騎手も驚くほどの豪脚で、ズバッと先行勢をまとめて交わしてきました。内を捌いて伸びたジョバンニ、さらに外から追い込むサトノシャイニングとの激しい3着争いとなります。横山騎手は「ダービーを使えるようなら楽しみ」と感じるほどの感触を得ており、中山コースのハンデをものともせず突っ込んでくる愛馬の力に目を見張りました。
サトノシャイニングも懸命に脚を伸ばしました。西村騎手は「直線は前を捕らえられるかと思ったくらいでした」と一瞬勝ち負けさえ意識したと言います。しかし序盤からの不利でエネルギーを消耗した影響か、ラスト100mで伸びが鈍りました。それでも掲示板(5着)には届き、意地は見せています。「今日は本当に運がなかった」と西村騎手は悔しさを滲ませました。
エリキングは直線で見せ場を作れませんでした。川田騎手は内目から馬群を捌こうとしましたが、速い流れに対応しきれず11着まで。初めての敗戦に川田騎手も唇を噛みしめます。それでも「具合良くレースを迎えられました。ダービーで改めてですね」と前を向き、この経験を糧に次戦での巻き返しを期しました。
そしてゴール板を駆け抜けたのはミュージアムマイルでした。ミュージアムマイルが1着、クロワデュノール1馬身半差の2着、さらにクビ差の3着にマスカレードボールという順位で、長い直線の叩き合いが決着しました。勝ちタイム1:57.0は前述の通りレコード、2着クロワデュノールも1:57.3と従来のレコードを上回る高速決着です。3着マスカレードボール、4着ジョバンニ、5着サトノシャイニングまでが1秒以内にひしめくハイレベルな争いとなりました。
ミュージアムマイルのモレイラ騎手はガッツポーズで歓喜を表し、場内から大きな拍手が送られました。一方、断然人気のクロワデュノールが敗れたことでスタンドにはどよめきも広がり、ネット上でも「嘘だ…!」「三冠の夢が…」とショックを受けるファンの悲痛な声が相次ぎました。しかしクロワデュノールも無敗神話こそ途切れたものの力のあるところは見せており、3冠戦線はこれでますます混沌とした様相を呈することになったのです。
レース後の証言:騎手コメントと陣営の反応
ゴール後、各騎手が続々と引き上げてきました。勝利ジョッキーのジョアン・モレイラ騎手は興奮冷めやらぬ様子でインタビューに答えています。「本当に良い馬ですね。最後に素晴らしい瞬発力を見せてくれました。道中スムーズではなかったですが、それでも最後は素晴らしい脚で勝利を取ることができました。状態はすごく良かったですし、パドックで跨った瞬間に力強さを感じて自信を持って挑みました。素晴らしい馬ですが、もしかしたら“素晴らしい”というより特別な馬になるかもしれません」と最大級の賛辞を贈りました。さらに「距離が延びても問題ないでしょう。400m延びるダービーでも大丈夫」と2400m戦への手応えも語り、この勝利をステップに更なる高みを目指す考えを示しました。
高柳大輔調教師(ミュージアムマイル)は愛馬とモレイラのコンビを称えつつ、「ジョッキーにはスタートだけ気をつけてと話しました。4角では前走伸びなかった悪夢がよぎってドキドキしましたが、坂で伸びが違ったので勝利を確信しました」と胸の内を明かしました。「この馬のストロングポイントはポテンシャルの高さ。ゲートさえ出れば今日のように最後伸びてくれる。距離の融通も利くでしょう。課題は常にスタートですね」と今後への展望も語り、東京優駿(日本ダービー)を見据えて課題克服に取り組む意欲を見せました。レース後、馬主サンデーレーシングの吉田代表は冗談交じりに「名前は“マイル”ですけどね(笑)」と語りつつもダービーでの2冠獲りに照準を定めたことを明かし、陣営は早くも次なる大舞台へ向け士気を高めています。
惜しくも2着に敗れたクロワデュノール陣営も、その能力を改めて証明した走りに前向きな姿勢でした。北村友一騎手は「たくさん支持していただいた中で勝てず申し訳ない」とファンに詫びつつ、「不利を受けながらも最後までしっかり走り切ってくれました。凄い馬だと思います。また次に頑張ってほしい」と愛馬を称えました。悔しさを滲ませながらも、あの不利がなければ結果は違っていたかもしれないという無念も口にしています。斉藤崇史調教師は「向こう正面でぶつけられたのが痛かった。あれがなければ勝っていました。本当にそれだけです。馬はよく走っています。ブレーキをかけてスタミナを消耗したけど、それでも4角で捲っていって前を捕らえ、勝ち馬以外には差されていません」と悔しさを滲ませつつも愛馬の力走を称え、「ダービーで巻き返したいです」と早くも雪辱を誓いました。
横山武史騎手は3着マスカレードボールについて「ポジションを取りたかったけど取れませんでした。ただ終いは脚を使ってくれました。中山は得意ではないけど今日は能力だけで来てくれたと思います。順調ならダービーが楽しみです」とコメント。スタート直後の位置取り失敗を悔やびつつも、荒れた展開で怯まず伸びてきた末脚に手応えを感じています。手塚調教師も「状態は良かったです。ごちゃついて荒い競馬になってしまいそれが一番心配でしたけど、耐えてよく伸びてくれました。力はありますね。楽しみになりました」と語り、広い東京コースなら更なる前進を期待できるとの見解を示しました。
5着サトノシャイニングの西村淳也騎手は肩を落としながら「1コーナー、向正面と何度も不利を受けて、終始ストレスのかかる競馬になってしまいました。コーナーで少しズブさを見せるのはいつものことですが、それでも直線は前を捕らえられるかと思ったくらいでした。今日は本当に運がなかったです。残念です」と悔しい胸中を明かしました。輸送も無事こなしプラス体重で臨めただけに、レースのアクシデントが悔やまれます。杉山晴紀調教師は「外枠でしたし、Cコースでロスはあったと思う。1コーナーでのゴチャつきでもエキサイトしていた。この2つですね。でも輸送は問題なかったし、負けはしたけど良い経験になりました」と前向きに総括しました。大舞台の雰囲気に馬が多少興奮してしまった点も指摘しつつ、この悔しさを成長の糧とする考えです。
エリキングの川田将雅騎手は「具合良くレースを迎えられました。ダービーで改めてですね」と多くを語りませんでした。初黒星を喫したことで「未完の大器」の現時点での力が浮き彫りになった形ですが、怪我明けからここまで立て直した陣営にとって無事に走り切った意義は大きいでしょう。中内田調教師は「追い切って一つ二つ良くなった」と状態面の良化を強調して送り出していただけに結果は残念でしたが、まだキャリア4戦目、広い東京コースで改めて巻き返しを図る構えです。
総括:戦術とドラマが交錯した王者戴冠、そして次なる舞台へ
以上、第85回皐月賞はスタートからゴールまで波乱含みの展開となり、勝負所での各騎手の判断と馬の適応力が明暗を分ける結果となりました。勝ったミュージアムマイルは、道中の不利を克服してのレコードVという文句なしの内容で、モレイラ騎手の手綱捌きも冴え渡りました。クラシック戦線でのGⅠ初制覇がいきなり達成されたことにより、ダービーの有力候補に名乗りを上げたと言えるでしょう。モレイラ騎手はこの勝利で桜花賞(エンブロイダリー)に続く春GⅠ連勝を達成し、今年の春GⅠは高松宮記念を含め4戦3勝という驚異的な成績となりました。桜花賞→皐月賞の連勝は2019年のC.ルメール騎手以来6年ぶり6人目と快挙で、世界的名手の存在感が際立つシリーズとなっています。
一方、敗れたとはいえクロワデュノールの能力も本物です。不利がなければ…という仮定は残りますが、それでも2着を確保した底力とレースセンスはさすが2歳王者に相応しいものでした。北村騎手・斉藤調教師というコンビで臨むダービーでは、広い東京コースで雪辱を期すことになります。同じサンデーレーシングの所有馬同士で明暗が分かれた形ですが、両頭ともダービーで再戦となれば大きな注目を集めるでしょう。
また、3着マスカレードボールは中山克服の光明を見出しました。「能力だけでここまで来た」という評に違わぬポテンシャルを見せ、東京に替われば逆転まで狙える存在です。横山武史騎手も手塚師もダービー出走を前提に前向きな発言をしており、大舞台への視界は良好です。
サトノシャイニングは5着に敗れましたが、GⅠの壁とレースの難しさを経験したことは収穫です。レース後に杉山師が語った「良い経験になった」という言葉通り、まだ粗削りな面を修正できれば巻き返しの余地があります。何よりあれだけの不利を受けてもバテずに5着を確保したのは地力の証明であり、引き続き侮れない一頭です。
エリキングは無敗神話が潰え、人気を裏切る形となりました。しかし川田騎手も「ダービーで改めて」と語ったように、あくまで大目標は次。中内田厩舎としてもダービー制覇経験(2018年ワグネリアン)があるだけに、この敗戦を飛躍の糧とするべく立て直しを図ってくるでしょう。
今年の皐月賞は、レース前の下馬評通り上位人気馬同士のドラマチックな戦いとなりました。瞬時の判断が求められる乱戦、それに対応した騎手達の技量と駆け引き、そして馬自身の底力と根性が際立った名勝負だったと言えます。勝ったミュージアムマイルが「特別な馬」へと成長を遂げるのか、クロワデュノールが雪辱を果たすのか、他の有力馬が捲土重来するのか──。次なる舞台、日本ダービーでも熱い戦いが待っていることでしょう。競馬ファンならずとも目が離せない、今年のクラシック戦線の行方に大いに注目です。
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