セールの中継を見ていると、誰もが一度は思うはずです。この何億円もする馬、本当に走るんだろうか、と。
ただ、これを確かめるのは実は簡単ではありません。セールの時点では馬名が決まっていないからです。上場馬は「ヤングスターの2025」のように母名と生年で呼ばれていて、競走馬名とは直接つながっていません。そこで今回は、父と母と生年の3点セットをキーにして、TARGETの馬データと照合するアプリをClaude Codeに作ってもらいました。同じ母は年に1頭しか産めないので、この3点が揃えばほぼ一意に決まるんですね。
照合できたのは9,981頭。そのうちキャリアがほぼ完結している世代(2020年生まれ以前)で、落札が成立した7,322頭を答え合わせの対象にしました。賞金はJRA中央の本賞金のみ、価格は税抜です。
結論から。価格は能力を当てる
まず、値段が高い馬ほど走るのか。答えはイエスでした。
勝ち上がり率(JRAで1勝以上)を価格帯別に並べると、2000万円未満が34.8%、2000万円台から4999万円が48.4%、5000万円から1億円が61.1%、1億円から2億円が67.7%、2億円以上は72.3%。見事なくらい単調に上がっていきます。重賞勝ち馬になる確率も、2000万円未満の1.6%に対して1億円超えは12.8%。約8倍です。
セリの価格というのは市場参加者の能力評価の総意なわけですが、それがちゃんと機能している。正直、ここまできれいに階段状になるとは思っていませんでした。
でも財布は潤わない
ところが回収率(獲得賞金を落札価格で割ったもの)を見ると、話が逆転します。
2000万円未満の馬たちの回収率は119.8%。なんと黒字です。それが価格帯が上がるごとに下がっていって、2億円以上の馬はわずか25.4%。全体でも72.7%ですから、馬主さんの世界も馬券と同じで、期待値的には賞金では回収できない世界なんですね。それでも買う。夢とはそういうものなのだと思います。
6億円の馬は一度も走れなかった
歴代最高額、2006年に6億円で落札されたトゥザヴィクトリーの2006(父キングカメハメハ)。この馬の答え合わせをすると、JRAの登録記録そのものが存在しませんでした。つまり、一度も中央のターフを踏むことなく終わっています。
1億円以上で落札された352頭のうち、未勝利に終わったのは110頭。31.3%です。3頭に1頭は、億のお金を積んでも1勝もできない。これが現実の厳しさです。
それでも夢はある
一方で、億超えからはG1馬が15頭出ています。確率にして4.3%。全体のG1馬率が0.8%ですから、5倍以上の濃度です。
顔ぶれもすごい。1億9000万円のジャスティンパレスはJRA賞金9.75億円で回収率513%。1億6000万円のスワーヴリチャードは8.73億円で563%。1億3000万円のマンハッタンカフェはG1を3勝しています。
そして安い馬からも怪物は出ます。あのディープインパクトは2002年のセレクトセールで7,000万円でした。JRAで12勝、G1・7勝、中央賞金だけで13.2億円。黒字額では全馬の中で堂々の1位です。タイトルホルダーにいたっては2,000万円で落札されて10.2億円を稼ぎました。51倍です。
個人的に一番好きなのはデアリングタクトのストーリーです。2017年のセールでは主取、つまり買い手がつきませんでした。翌年もう一度上場されて、1,200万円で落札。そこから無敗の三冠牝馬になって5.5億円を稼ぎました。主取といえばロードカナロアも2008年のセールで売れ残った馬です。セリの評価と競走能力の間には、まだまだ大きな隙間があるということですね。
ダッシュボードで全部見られます
億超え352頭の内訳、歴代高額TOP20の答え合わせ、バリュー購買ランキング、高額で未勝利に終わった110頭の一覧、購買者ごとの回収率番付、種牡馬別の回収率まで、全部ダッシュボードに入れてもらいました。照合できた1万頭あまりは検索もできます。
ダッシュボードはこちらです。
僕がやったのは、手元のExcelとTARGETのデータを渡して、照合のアイデアを伝えただけです。29年分、延べ11万走を超える成績の集計はAIが黙々とやってくれました。こういう「ずっと知りたかったけど手作業では無理だった集計」が形になるのは、本当にいい時代になったと思います。
なお、賞金は中央のみで地方交流や海外遠征分は含んでいません。走らなかった馬にも地方で活躍した馬が含まれている可能性はあるので、そこは割り引いて読んでください。
来年のセールでは、この答え合わせを頭に入れて中継を見ると、また違った楽しみ方ができるんじゃないでしょうか。4億円の馬に夢を見つつ、2000万円の馬にも夢がある。それが分かっただけでも、集計した甲斐がありました(^^ゞ

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