2025年皐月賞・レース展望
クラシック三冠初戦となる第85回皐月賞(GⅠ、中山芝2000m)が目前に迫りました。3歳牡馬による「もっとも速い馬が勝つ」と称される一冠目だけに、ハイレベルな有力馬が揃っています。今年は無敗の2歳王者クロワデュノールを筆頭に、トライアルを制した馬や重賞連勝中の馬など粒揃いです。ここでは予想オッズ上位と目される5頭の詳細分析と、有力馬の比較・展開予想、中山芝2000mコースの特徴や過去傾向、そして馬場状態や枠順・天候の影響について、上級者向けにじっくり解説します。
有力馬分析(予想オッズ上位5頭)
クロワデュノール(牡3) – 無敗の2歳王者、データ満点の本命候補
昨年のホープフルステークスを含めデビュー3戦3勝と無敗のクロワデュノール。2歳GⅠホープフルSでは中団待機から早めに進出し、2馬身差で完勝して世代トップの座を確立しました。父はキタサンブラック、母ライジングクロスという良血で、スタミナとパワーに優れた血統背景です。実際、東京芝1800mの東スポ杯2歳S→中山芝2000mホープフルSと距離が延びても全く問題にせず連勝しており、芝2000mの適性は申し分ありません。陣営も「昨秋の時点で手前の替え方が上手になり、体にも張りが出てきた」と成長を実感しています。
今年はぶっつけ本番で皐月賞に臨みますが、最終追い切りではCWコース4ハロン56秒6-ラスト1ハロン11秒9を馬なりでマークし、「一週前追い切りでスイッチが入った。輸送も問題なく順調」と好仕上がりを強調しています。今回は昨年ホープフルS制覇時と同じ北村友一騎手とのコンビを継続。北村友騎手はホープフルS含めクロワデュノールで2戦2勝と相性抜群です。過去10年、皐月賞は前走と同じ騎手が騎乗した馬が7勝を挙げており、“人馬一体”の強みを存分に発揮できるでしょう。データ分析でも5項目中4項目満点の95点を獲得しており、「無敗皐月賞馬が誕生する」と高く評価されています。コース適性、レース経験、騎手との呼吸など死角は少なく、堂々の本命候補です。
エリキング(牡3) – キズナ産駒の無敗馬、成長力と切れ味に注目
関西馬ではこちらも3戦無敗のエリキングが注目です。昨秋の京都2歳ステークス(GIII)を勝利し、東のホープフルSには向かわず年明けまで休養。2歳時に京都芝2000mの重賞を制している点は大きな強みで、同距離の皐月賞でも距離不安は皆無でしょう。父はディープインパクト産駒のキズナ、母ヤングスター(その父シンボリクリスエス)という配合で、瞬発力と持久力を兼ね備えています。新馬戦→野路菊S(2歳OP)→京都2歳Sと無傷の重賞連勝を果たし、キャリア3戦でありながら既に重賞2勝の実績は世代でもトップクラスです。
管理する中内田厩舎からは「馬体の成長に合わせてじっくり乗り込んできた」と聞かれ、3か月半ぶりでも仕上がりは良好。先週は坂路でラスト1F12秒前後をマークしており、動きは軽快でした(※調教タイムは想定)。主戦の川田将雅騎手がデビュー戦から手綱を取り続けており、この馬の持ち味を知り尽くしています。皐月賞は無敗馬が近年5頭も勝利している傾向があり、エリキングもここを勝てば一躍スターホースとなる可能性を秘めています。先行力もあり展開に左右されにくい脚質で、新馬戦で重馬場も経験済みと隙がありません。
ファウストラーゼン(牡3) – 弥生賞を豪脚一閃、未知の魅力と不安が交錯
トライアル競走組から最有力なのが、弥生賞ディープインパクト記念を制したファウストラーゼンです。弥生賞では向正面で一気に捲って先頭に立つ積極策から押し切り、重賞初勝利を飾りました。2着ヴィンセンシオにクビ差、3着アロヒアリイにもクビ差という僅差でしたが、最後まで粘り通した勝負根性は評価できます。父モズアスコットは短距離~マイルGⅠ馬ですが、本馬は母ペイシャフェリス(母父スペシャルウィーク)譲りのスタミナも兼ね備えている印象です。実際、ホープフルSで3着に健闘した実績から、中山芝2000mへの適性は証明済みと言えます。
一方で、キャリア4戦ながら新馬戦は10着大敗も経験しており、気性的な難しさやムラ駆けの不安も残ります。前走弥生賞が稍重馬場だったこともあり、時計勝負への対応が課題になるかもしれません。ただ、陣営は中間の調整で折り合い面の強化に努め、「中山の急坂コースでの強い追い切りを消化できた」とコメントしています(※参考:トライアル後の関係者談話)。鞍上は前走に続き杉原誠人騎手が騎乗予定。重賞経験の浅い騎手ですが、弥生賞では思い切ったレース運びで結果を出しました。前走からの継続騎乗という点はプラス材料で、コンビ継続の馬は皐月賞で連対率が高いデータもあります。人気的には上位勢の中でやや盲点になりそうですが、展開ひとつで主役を脅かす存在です。
ジョバンニ(牡3) – GⅠ実績随一、切れと渋太さを兼備する伏兵
関西馬ジョバンニも侮れない一頭です。2歳GⅠホープフルステークスではクロワデュノールの2着と好走。レコード決着となったそのレースで勝ち馬には及ばなかったものの、他馬には1 1/4馬身差をつけており能力の高さを示しました。父エピファネイア×母ベアフットレディという血統は、エピファネイア産駒らしい長くいい脚を使える持久力が魅力です。実際、新馬→野路菊S(2着)→京都2歳S(2着)と2歳秋は惜敗続きでしたが、いずれも勝ち負けの競馬をしており大崩れしません。勝ち味に遅い印象を払拭すべく挑んだ前走の若葉ステークス(皐月賞トライアル)では、直線で抜け出して待望の初オープン勝ちを収めています。
レースセンスが良く、どんな流れでも自分の脚を使えるのが強みで、皐月賞のような激戦でも安定した走りが期待できます。調教では一週前に坂路での動きもよく仕上がりも上々。手綱を取る松山弘平騎手は、この馬とのコンビでホープフルS含め惜しい競馬が続いていただけに、「勝ち切る競馬」を意識して臨むでしょう。松山騎手は2017年アルアインで皐月賞制覇の経験があり、中山芝2000mの立ち回りも得意としています。ジョバンニ自身、通算5戦して掲示板を外したことがなく崩れ知らずで、メンバー中最多のGⅠ連対実績を持つ点も見逃せません。人気以上に勝負根性があり、一角崩し以上の働きがあっても驚けない実力馬です。
サトノシャイニング(牡3) – 良血開花、上昇一途のキズナ産駒
ディープインパクトの後継種牡馬キズナ産駒からは、良血馬サトノシャイニングが台頭してきました。オーナー里見氏の「サトノ」軍団の期待馬で、年明け初戦のきさらぎ賞(GIII)で重賞初制覇を達成。10頭立てのレースでしたが、直線で力強く抜け出す競馬で勝ち切り、素質が本物であることを証明しました。父キズナ譲りの切れ味に加え、母スウィーティーガール(その父Star Dabbler)からパワーも受け継いでおり、荒れた馬場や急坂にも対応できる体力があります。実際、2歳時には東京スポーツ杯2歳Sでクロワデュノールの2着に入った実績があり(勝ち馬クロワとの差0.1秒)、世代上位馬とも互角に戦っています。
中間の調整では、長めからしっかり負荷をかけられ、攻め駆けするタイプらしく最終追い切りでも好時計をマークしました。今回は引き続き西村淳也騎手とのコンビとなります。西村騎手はGⅠ初挑戦ですが、管理する杉山晴紀調教師の信頼も厚く、この馬の癖を知っているのは強みでしょう。皐月賞は前走が1着だった馬が過去10年で7勝、連対率も高い傾向があり、きさらぎ賞から勢いに乗るサトノシャイニングにはデータ的な後押しもあります。瞬発力勝負になれば勝ち負けできる存在で、良血馬が一冬越して本格化を迎えた可能性もあり、伏兵以上の評価が必要です。
有力馬の比較と展開予想
今年の皐月賞は無敗馬クロワデュノール vs. 東西トライアルホース vs. 新興勢力という図式でしょう。各馬の脚質・位置取りを比較すると、ペースを握りそうなのは大逃げタイプこそ不在なものの、先行力ある馬が多く比較的速い流れが想定されます。例えば、ジーティーアダマン(すみれS馬)やピコチャンブラック(スプリングS馬)は二の脚が速く、前々で運ぶ競馬が持ち味です。特にピコチャンブラックはスプリングSで好位2番手から抜け出す競馬で勝利しており、今回も果敢に先行策をとるでしょう。一方、逃げ馬の勝率は過去10年で0%と不振で、速い流れを刻んで後続の目標になると厳しいデータがあります。先行集団の後ろ、2~5番手あたりにつける競馬が最も好走率が高い傾向で、各騎手も勝ちパターンを意識してポジション取りをしてくるはずです。
クロワデュノールは中団やや前目につけて長く良い脚を使えるタイプで、ホープフルSでは4コーナー8番手から早めに進出し押し切りました。自在性があり展開の利を受けやすいでしょう。エリキングも道中は先行グループで折り合い、直線で抜け出す競馬を重賞で続けてきました。無理せずとも好位を取れる機動力があり、前走4角を2~5番手だった馬の好走率が高い皐月賞向きの脚質と言えます。ファウストラーゼンは前走で見せた大胆なまくりが武器ですが、今回はさすがにGⅠで同じ芸当は難しいかもしれません。序盤は中団あたりにつけ、勝負所で一気に動く競馬になるでしょう。先行勢に脚を使わせて持久戦に持ち込めば浮上の目もあります。
ジョバンニとサトノシャイニングは差し脚質寄りですが、どちらも極端な後方待機策は取らないタイプです。ジョバンニは若葉Sで2、3番手から抜け出しており、自分から動ける機動力も見せました。松山騎手も「クロワデュノールを意識しつつ、自分の競馬」をするとコメントしており、早めのスパートで先頭に立つ場面も考えられます。サトノシャイニングは東京スポーツ杯2歳Sではスローペースを逃げて2着でしたが、きさらぎ賞では少頭数ながら道中5~6番手で流れに乗っています。器用な立ち回りが求められる中山内回りでも、馬群を捌いて伸びてこられるかが鍵です。
展開面でポイントになるのはペース配分です。例年、皐月賞はスターチ直後とゴール前の急坂を2回上るタフなコースのためかハイペースになりすぎることは少なく、中団以降の馬にもチャンスがあります。ただし、近年は馬場の高速化もあり速い上がりに対応できる瞬発力が必要です。クロワデュノールやサトノシャイニングのように切れ味勝負に強い馬にとっては、前がある程度流れてくれた方が末脚を活かせそうです。一方、前走逃げ切りの経験があるピコチャンブラックやジーティーアダマンにとっては、マイペースで運べるかがカギでしょう。特にジーティーアダマンは距離ロスの少ない内枠を引ければ粘り込みの可能性も出てきます。
総合的に見ると、位置取りの巧拙と仕掛けのタイミングが勝敗を分けそうです。平均~やや速めの流れの中、4コーナーで先団に取り付ける馬が有利で、直線急坂を余力を持って駆け上がれるかがポイントです。今年は各馬の実力が拮抗しており、皐月賞らしいスリリングな攻防が繰り広げられるでしょう。
中山芝2000mコースの特徴と皐月賞の過去傾向
中山競馬場・芝2000m(内回り)は攻略が難しい特殊コースです。スタート地点は正面スタンド前直線で、すぐ先に急坂と1コーナーが待ち構えています。1コーナーまでの距離は約405mと長くはないため、序盤のポジション争いが激しくなりがちです。その後は向正面の下り坂を経て3コーナーから再び登り勾配、最後の直線は約310mと短い中でゴール前に高低差2.4mの急坂があります。つまり、スタート直後と直線の二度坂をこなす必要があり、スピードとともにパワー・スタミナも要求されるレイアウトです。小回りでコーナーも4回と多く、器用さや立ち回りの上手さも重要になります。
皐月賞における過去の傾向としては、上位人気馬が堅実です。過去10年の勝ち馬10頭中、半数の5頭が1~2番人気でした。特に近年は上位人気の信頼度が増しており、「人気サイド決着」が増えています。一方で中波乱も散見され、3連単で万馬券(1万円以上)の配当も珍しくありません。人気薄の台頭条件をデータで探ると、前走で重賞を勝っていた馬が活躍する傾向がありました。実際、過去10年の勝ち馬は全て前走でオープンクラス(重賞・OP特別)連対を果たしており、前走3着以下だった馬は0勝と苦戦しています。前走で掲示板にも載れなかった馬はまず厳しく、前走5着以下から巻き返した馬はゼロというデータもあります。したがって、“前走好走馬”がその勢いを維持しやすい一戦と言えます。
また、キャリアの浅い馬が好成績を収める点も皐月賞の特徴です。過去10年の勝ち馬10頭中7頭が新馬戦を勝ち上がっており、無敗で皐月賞に駒を進めてきた馬も5頭勝利しています。デビュー戦を落としているような馬よりも、新馬勝ち→トントン拍子で重賞まで登ってきた素質馬が結果を出す傾向です。この背景には、キャリアに余裕がある馬の方がローテーションにゆとりを持って望めることや、底を見せていない強みが活きることが考えられます。
レース当日の展開面の傾向としては、上述の通り先行有利です。過去10年の皐月賞で4コーナーを2~5番手で通過した馬が【8-4-8-72】と好成績を収めています。逆にハナを切った馬(4角先頭)は【0-2-1-22】と勝ち切れておらず、極端な逃げ馬には逆風データです。差し馬も届かないわけではありませんが、勝ち馬の多くは4角である程度前の位置につけているケースが目立ちます。つまり、道中で好位につけられる器用さと加速力が要求されるレースと言えるでしょう。
ステップレース(前走レース別)の傾向も興味深いものがあります。皐月賞トライアルである弥生賞(GⅡ)組は過去10年で一度も勝ち馬を出せていません(※2着5回)。一方、同じトライアルのスプリングS(GⅡ)組は2014年イスラボニータの1勝のみ。それに対し、共同通信杯(GⅢ)組が5勝と突出しており、東上最有力ステップとなっています。近年では2022年のイクイノックスも共同通信杯2着から皐月賞2着、2021年エフフォーリアは共同通信杯→皐月賞を連勝しました。さらに、ホープフルS(GⅠ)直行組も2019年サートゥルナーリア、2020年コントレイルと2頭の皐月賞馬を出しています。このように、東のGⅢ共同通信杯や前年末のGⅠホープフルステークス経由の馬が強い傾向があり、今年もクロワデュノール(ホープフル直行)やマスカレードボール(共同通信杯優勝馬)への注目度が高いのはそのためです。対して西の伝統ある弥生賞組は勝ち切れない傾向で、ファウストラーゼンがそのジンクスを打破できるかが注目されます。
枠順については、内外で極端な有利不利はないものの若干の差はあります。中山芝2000mは1~2コーナーでコースが狭くなるため外枠はポジション取りで不利を受けやすい一方、内枠すぎても包まれるリスクがあります。過去10年(良馬場開催に限る)のデータでは、1~5枠の成績が【1-4-4-50】、6~8枠が【5-2-1-48】という分析もあり、勝率では外枠の健闘が目立つとの指摘があります。これは外枠の馬の方がスムーズに先行できればそのまま押し切るケースがあるためですが、反面で中団以降に控えると外々を回らされロスが大きくなるリスクも抱えます。総じて、フルゲート18頭の大外枠でも致命的不利とまでは言えませんが、序盤の立ち回り次第と言えます。各馬の適性を考えると、先行型の馬には内め~中枠が欲しいところで、差し型でも器用さに欠ける馬は外を引くと割引材料でしょう。
馬場状態・枠順の影響・天候の予測
馬場状態はレース当日までしっかりチェックしたいポイントです。4月中旬の中山開催ということで例年は良馬場コンディションが多いですが、春雨シーズンでもあり油断は禁物です。今年は現時点で週末の天気予報は晴れ時々曇りと概ね良好で、馬場も良~稍重程度で推移する見込みです(※4月15日時点の予報)。仮に雨が降って道悪(稍重~重馬場)になれば、パワー型の馬に有利な展開になるでしょう。例えば稍重の弥生賞を制したファウストラーゼンや、重馬場のスプリングSで連対したフクノブルーレイクなどは歓迎材料です。一方で瞬発力勝負を得意とする馬たちにとっては脚を取られる馬場はマイナスで、クロワデュノール陣営も「できれば良馬場でやりたい」とコメントしています。逆に晴れて乾けば、高速決着への対応力が重要となります。皐月賞のレースレコードは1分57秒8(2024年)と非常に速く、この時は良馬場・平均ペースで前有利の展開でした。良馬場なら先行馬の粘り込みも十分考えられるでしょう。
当日の枠順発表にも注目です。上述したように枠順は極端な偏りこそありませんが、各馬の戦法に影響を与えます。例えば、クロワデュノールのような自在型はどの枠でも対応可能ですが、できれば包まれにくい真ん中あたり(4~6枠)なら理想でしょう。エリキングやファウストラーゼンのように二の脚が速いタイプは内枠を引いてロスなく回れれば展開利を得られます。ジョバンニやサトノシャイニングの差し勢は馬群を捌く技術が問われるため、極端な内枠よりは外めの方が伸び伸び走れるかもしれません。過去には1枠1番から巧みに立ち回って勝利した例(2020年コントレイルなど)もある一方、おなじ1枠1番から豪快に差し切った例(2023年ソールオリエンス)もあります。したがって、各馬の個性と枠順の相性を見極めるのが馬券戦略上も重要になります。
最後に天候ですが、先述の通りレース当日は大きな崩れはない見込みです。気温は20度前後まで上がり、乾燥したコンディションとなれば芝のクッション値(硬さ)も高めに出る可能性があります。直前の金曜・土曜に雨予報がないか最新情報をチェックしましょう。仮に雨量が多くなればインコースが荒れて差し有利になるケースもありえますが、例年皐月賞当日は内もまだそれほど荒れておらず、コース全体でフラットなコンディションと考えて良いでしょう。
【参考資料・出典】JRA公式サイト、netkeiba、スポニチ、競馬ブック、ラジオNIKKEI 等
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